kimochi3

 

 

表彰式が終わり沢山の記者とカメラマンに囲まれてしまった坂道は、
人生初の撮影会の如く浴びせられるシャッター音の中、失礼にならない程度に受け答えを済ませると駆け出した。

「いない・・・」

さっきまでそこに居たはずの人物の姿が見当たらなくて、どうしようと佇んでいたら巻島さんに帰るぞと呼ばれてしまった。
いつもだったら楽しい帰り道になるところだけど、今日は違うのだ。
東堂さんに会わずして帰るわけには行かない。

待って欲しいとお願いをして、嫌がる巻島さんに東堂さんを呼び出してもらうところまでは良かったんだけど、
その後どうすればいいのかまでは全く考えていなくて……

とにかく荒北さんに会ってお礼を伝えたいんだということを伝えたら、何故だかすごく嫌な顔をされてしまった。

 

帰るついでに荒北を回収するつもりだと言う東堂に、どうせならメガネくんも共に乗っていけと
先程まで優勝の座を巡り、競い合っていた箱学メンバーが乗るバスへ押し込まれてしまった時は、
あまりにも図々しくて失礼な行いに縮こまっていたけれど、
それでも会いたいという気持ちの方が勝ってしまってどうしようもなかった。

バスの外では、暴れる巻島の身体を東堂が抑え込んでいるが、それも長くは持たないだろう。
早く行けと促され、東堂を残し発車するバスの窓越しから見える
「あんな狂暴な野獣の処へ 坂道一人で行かせられるワケないショォォ──ッ!」と叫び散らす巻島へ
心の中で手を合わせ謝りながら、坂道は ん?と首を捻る。

荒北さんに会いに行くと伝えたはずなんだけど、行き先を勘違いさせてしまったのだろうか

ちゃんと訂正しておかなくちゃと携帯をぴこぴこと操作しメッセージを送信し終えたことで安心した坂道だったが、
送られてきたメールに更なるダメージを受けることになった巻島は悲痛の叫びを上げ、総北テントへと駆け出すのだった。

 

To:巻島さん

ボクの説明が下手で勘違いさせてしまったらすみません‼︎
動物園ではなくて、荒北さんに会いに行ってきますねヾ(´︶`♡)ノ

                     From:坂道

 

 

 

 

 

 

「大好きです」

荒北に請われるがまま、何度も同じ言葉を繰り返し伝える度に坂道の胸はほわほわと温かくなる。
それと同時に心臓がどきどきして、何故だか少し苦しくもあった。

首筋に当たる荒北の髪が、恐る恐る伸ばした坂道の指の間をさらりとすり抜けていく。

(ぁ、・・・柔らかい)

もう少し硬いのかななんて想像していたけど、怖そうな見た目に反して中身はとても優しい荒北のイメージと全く一緒で、
坂道はふふと小さく笑ってしまった。

「なに笑ってンの」って顔を上げた荒北さんに睨まれてしまったけど、怒ってるのとは違ってそれは優しい声で。
また胸がきゅるっと疼くように痛む。

 

「なァ・・小野田チャンの一番好きなモン教えてヨ」

唐突に問い掛けられきょとんとしていると、荒北に鼻をむぎゅと摘まれた。

1番好きなもの──?

ほわほわんといくつか脳裏に浮かんだモノから最初に選んだのはやっぱりラブ⭐︎ヒメだ。
あ、でもモグモグリン子も捨て難いなぁ。
でもでも同じくらい好きなアニメは他にもたくさんあるし、ガシャポンの発売情報は取り零しがあっては大変だから
毎日のチェックは欠かせないでしょ。
今では身体の一部といっても過言ではない大切なロードは勿論外せないし。
緩やかな山道でも激坂でも登るのは好きだし、自転車競技部に入ったことで沢山の友人や尊敬する先輩達とも出会えた──・・・

思い付くままに指を折っていたら、両手じゃ足りなくなってきてしまったことに坂道は驚く。
いつの間に自分はこんなに好きなものが増えたんだろう。
アニメにしか興味がなく、友達もいなかった昔とは大違いだ。

「・・そんなにあンのかヨ」

不意に鼓膜を揺らす声のトーンに、慌てて視線を移動させると、眉を寄せた険しい表情でこちらを見ている荒北がそこにいて。
肩口から瞳だけを上げてはいるけれど、こちらを見ているはずの視線がかち合わない。

(あれ……なんか怒って、る?)

途中まで折りたたんでいた指も、今は荒北の大きな掌に掴まれてしまっていて動かせない。
けれどその力は、坂道ですら簡単に振り解けるほどに優しい握り方で。
少しほっとして、掴まれていない方の右手をその上に重ねた。

「はいっ。一番って言われると中々決めきれないものですね」

と答えたのはダメだったのかもしれない。
荒北さんの眉間がぎゅぅぅっと寄ってしまった。

 

 

 

 

散々悩んだ結果、導き出した答えは坂道にとってコレしかないと言えるものだった。
これ以上のものはない。

それは──

 

「秋葉原!!」
「・・・ハ?」
「ボクの一番好きなもの・・それはずばり!アキバです!!」

 

ウン、やっぱりこれが一番だ。
だって好きなアニメのグッズやDVDは勿論のこと、ガシャポンの種類も豊富だし、
今では鳴子くんや今泉くん達とロードで一緒に行ったりもする。
ボクの好きなもの全部が詰まっている秋葉原はやっぱり最強だと思うんだ。

 

「・・・アーソォダヨネ。ウン、ワカッテター」
「分かってくれますか?!さすが荒北さんですねっ!」
「イヤ、ワカンネーヨ」

 

どこか遠くの方へ向けていた視線が戻ってきたと思ったら、また鼻を摘まれてしまい
ふがっ と変な声が漏れた。恥ずかしい。
それに、今度はちゃんと視線を合わせてくれているけれど、目を眇める荒北の眉間の皺は相変わらずで戸惑う。

(この回答も間違えだったのかな…?)

さっきから怒らせてばかりだ。
かと言って理由も分からないし、それを聞いたらもっと怒らせてしまいそうだから聞けない。

 

どうしたらいいんだろう
今はもう怖いなんて思わないから平気だけど

どう答えたら 笑ってくれるのかな

 

そんな事を考えていると、
唐突にこちらへ伸びてくる手に驚いて、思わずぎゅっと目を瞑る。
一瞬叩かれるのかもと思ったが、いつまで経ってもそんな痛みはやってこない。
やってきたのは、一瞬の浮遊感だった。
何が起きているのか理解する前に着地したのは──荒北の上。

 

「………へ、っ⁈ ぅわひあああ、っ!」

言葉にならない声を上げる坂道を、どこか愉しそうに眺めている荒北。
上半身をベッドの背に預ける荒北の腰に、跨るような格好で座らされた坂道の腰は、しっかりと両腕でホールドされていて最早逃げる隙もない。

(ち、近っ‼︎‼︎)

無駄と知りつつ目の前の胸板に両手をついて必死に距離を取ろうとするも、
“うっセェ”と一蹴
されてしまえば大人しくするしかない。

 

「その一番好きなモンの中に、オレが入ってないのは何でェ?」

また質問だ。
今度こそ怒らせないような回答をしないと。

意気込んではみるものの、投げ掛けられた難問に今度は坂道の表情が曇る。

 

僕の一番好きなものの中に
荒北さんを入れなかった理由──?

 

「大好き なんだろ?」

それは勿論ですっ とこくこく首を振る。
その反応に軽く笑った荒北が、目を眇め再び追及する。

 

「じゃあ ナンデ?」

何で・・・

改めて聞かれると、自分でもどうして荒北を一番に浮かべなかったのか不思議に思う。
良くわからないのだけど、今改めて考えてみても違和感というかしっくりこないのだ。

好きなはずなのに、一番好きなものはと聞かれたらそこに荒北を上げるのは違う気がする。
アキバは好きだけど、それと荒北さんを同等にはできないというか、したくないというか。
本能が違う違うと拒絶する。

どうやって説明すれば良いか分からないけれど、とにかく違うということだけは分かって欲しかった。

荒北さんはもっと────

 

「あ、あああのっ──、」

 

「アラキタァーー!ちぃーと邪魔す・・・てぇ、お?おおおお?」

突如、坂道の声を掻き消すくらいの大きな声音がテント内へ響き渡った。
ぎょっとして振り返った坂道の身体が固まる。

 

────嫌だ

この人は危険で怖い。
言葉巧みに人を集め信頼させ、必要が無くなれば即切り捨てる。
笑っているのにその瞳の奥からは何も感情が伝わってこないのだ。
出来れば関わりたくないと思っていた彼がどうして此処に・・・

 

荒北と向き合っていた身体を素早く反転させ来訪者と向き合った坂道は、
これ以上来ないで欲しいという意味を込め両腕を左右に広げた。

一見背後を守っているようにも見えるが、向きが変わっただけで荒北の腰に跨った状態に変わりはないし、
なんともお間抜けな格好なのだが本人は至って真面目である。

というかそれさえ気付かないくらい必死だった。

 

「マチミヤてめぇー!な、──」
「な、っ、なにをしに、来られたの…でしょう、か」

同時に放った言葉がテント内に木霊する。
ハッとして振り返ると、荒北もまた驚きの表情を浮かべていた。

謝ろうとする坂道を制し「言うじゃねーか」と口角を上げ荒北が笑った。
ぽんぽんと頭を撫でてくれる掌が心地好くて、身体の強張りが解けていく。
動揺していた心は落ち着きを取り戻し、いつの間にか身体の震えも止まっていた。

再び待宮へと身体を向けながら坂道は思う。

荒北さんはやっぱりすごい
荒北さんがくれる言葉も行為も表情も
どれもが温かくて優しい
そして力をくれる

協調で共に走った時のように

 

「ハッ、随分な嫌われようじゃねェーの。ま、自業自得だけどナァ」

ザマーミロと荒北に鼻で笑われた待宮が「そげに嫌われるようなことしたかのぉ?」と首を捻って此方を見るが、坂道は視線を外す。
今や荒北は待宮に対しての印象を改め、好意的に見ているようだが、自分はまだとてもそんな風に思うことはできなかった。
前に出るためなら人を裏切ってもいいと言うやり方はやっぱり受け入れられないし、
そんな人を大切な仲間の側には近付けたくない。

荒北に怪我を負わせたことも、待宮を許せない大きな要因でもあった。

 

「小野田くん、じゃったか」
「は、はいっ」
「そいつがべプシ奢ってくれるゆーたくせに、まだ奢ってもらっとらんでのぉ。たかりに来たんじゃ」

エエッ と独特な笑い方が坂道の眉間の皺を深くさせる。
坂道はサイドテーブルに置かれているベプシを掴むと待宮に差し出した。

「ベプシならこ、これをどうぞ。だいぶ温まってますが」
「や、温いて…エエッ?小野田くん・・これでもワシ、客人なんじゃけぇ。アンタ可愛い顔して結構酷うこと言うんじゃのぉ」

 

お客さんは人にたかったりしないと思うんだけどな……

 

とにかくコレを渡せば帰ってくれるかもしれない。
坂道が腕を伸ばすと、文句を言いながらも受け取ろうとする待宮の手がボトルに触れる直前、
背後から伸びてきた手によってそれは奪われてしまった。

 

「なァーに勝手にやろうとしてんのォ?オレに買ってきたやつなんだろ、コレェ」
「え、あ、すみませんっ…でも……」
「でももクソもねーの。おいマチミヤ、てめーはその辺で買ってこい。どうせ外に東堂がいンだろうし、そいつに払わせりゃいーから」
「われじゃないんかい!」
「ッセー、今手持ちがねーんだ。ほらさっさと行けヨ」

 

荒北に冷たく追い払われるも意に介さず、へらりと笑いながら出口へ向かうその後ろ姿をぼんやり見つめていると、
「そうじゃ、」と思い出したかのように待宮が声を上げた。

 

 

「アンタはなしてココぉに居るんじゃ、小野田くん」

え、僕?
突然話を振られ咄嗟に反応できない坂道を無視して、待宮が続ける。

 

「途中リタイアした荒北を哀れみに来たんか?それとも、優勝の座を逃したヤツのことも考えんと、個人総合優勝獲ったんじゃーいう報告か?」
「ち、違…っ」
「小野田くんてちぃーと天然入っとんか知らんがトロくて大人しい感じの子ぉかと思っとたんじゃが、案外強かキャラだったんじゃのぉ」

 

違うのに、そうじゃないのに、早く否定しなきゃと思うほど喉の奥がきゅっと詰まったみたいに苦しくなって声が出てくれない。
でも、待宮の言うように第三者から見ればそう捉えられてもおかしくないのかもしれない。

荒北に会いたい一心で此処まで来てしまったけれど、冷静になって考えてみればそんなのは単に坂道の我儘な想いで、
なにも今日レースを終えた足で来る必要はなかったんじゃないか。

自分勝手な行動が周りに迷惑を──そういえば此処に来るまでのバスの中で、真波くんとは一言も話せなかったな。
声を掛けようとしたら困ったような笑みを浮かべて、すぐにバスの外へと視線を移されてしまったから。

それってもしかして・・・

 

僕は馬鹿だ。
自分のことばかりで、周りの事も荒北さんの気持ちも全然考えていなかった。
自分のためなら平気で人を裏切るような人は嫌だなんてどの口が言えたのか。
それは待宮さんじゃない。
僕自身じゃないか。

 

「もしかして小野田くん、泣きよる?エッエッ。こりゃすまんかったのぉ、まさか図星じゃったとは。アラキタも傷心の中疲れとるのに可哀想じゃのぉ」
「ご、ごめ……、っ」

 

ごめんなさい、荒北さん。
考え無しに来てしまったばかりに、嫌な想いをさせてしまって。
荒北さんの優しさに甘えるばかりで僕は・・・

 

何で自分はこうなんだろう。
どんなに謝っても許してもらえないかもしれない。
もう二度と会ってもらえないかもしれない。
そうなっても仕方がないというのに、嫌だと思ってしまう自分がいるのだ。
 ──あぁ、自分勝手にも程がある。

 

堪えていた涙が零れ落ちたその時、背中に温かい体温を感じた。
腹部に回された腕を辿り首だけを背後へ巡らせる。
そんな事をせずとも背後の人物が誰かなんて分かりきっているのに、坂道はそうせずにはいられなかった。
きゅうぅぅ、と今まで以上に胸が疼いて苦しいのに、とくんとくんと鼓動が高鳴るのを感じた。

坂道よりも大きくて、皮膚の硬さもマメの数も比べ物にならないくらいずっと男性らしい格好良い手。
骨張った手の甲に浮かぶ筋から目が離せなくて、また胸が甘く疼く。

「マチミヤてめぇー!小野田チャン泣かせてんじゃねェーヨ!…ったく。
 コイツはなぁー、大好きなオレに会いたくて会いたくて我慢ならねェから告白しに来たの。
 それをごちゃごちゃと・・・邪魔してんじゃネェーッ ぶアァァァカ!!」

「え、荒北さん…あの…っ」
「ナニ、小野田チャン。オレなんか間違ったコト言ったァー?」

 

最初は、”表情も口調も全てが殺気立っていて、強そうで声も大きくていつも怒っている人”という印象しかなかった。
怖くて怖くてボクの最も苦手とするタイプだった荒北さん。
それが協調を結んだあの僅かな時間の中で、その印象は一瞬にしてガラリと変わってしまったのだ。
本当は嫌だったはずなのに、協調の申し出を受け入れてくれた。引けと言ってくれた。
平坦は遅いしコース取りもめちゃくちゃ下手なことは自分でも分かってる。
そんな走りのボクに期待以上だと荒北さんは褒めてくれた。
あっという間に集団から抜け出して、巻島さんや東堂さん達を追い抜き、
チーム全員が揃う広島呉南とたった一人で勝負に挑み勝利してしまえるとても強い人。
全力でチームを引き自分の役目を終え力尽きる寸前、荒北さんは敵である僕の背中を押してくれた。
“ボクにできる事があるなら何でもします”なんて言った癖に、実際はしてもらうばかりで何も返すことができずにいたのに・・

だからせめて「行け」と言ってくれた荒北さんに恥じない走りをしようと思ったんだ。

そして何より”小野田チャン”と呼ばれるたびに擽ったくて、でも認めてもらえたみたいで嬉しかったこと。
今は名前を呼ぶその声がとても優しくて、前とは違った緊張と激しい鼓動に胸が飛び出そうになるのも。
僕が不安な時、困っている時にさり気なく手を握ってくれたり、助けてくれたりするのも。
今みたいに優しく抱き締めてくれるのも。

荒北さんだから、こんなにどきどきするんだ。

好きなものは沢山あるし、好きな人も沢山いる。
だけど荒北さんは違う。好きの種類が全然違うんだ。
比べ物にならないし、それらと一緒にするなんてとても出来そうにない。

 

『小野田チャンの一番好きなモン教えてヨ』

 

そう言われて、荒北さんのことを思い浮かべなかったのはそういうことなんだ。
今、漸くはっきりと自覚した。

この気持ちの正体が何なのかを──

 

 

「いえっ、何も間違っていません!ボクは…ボクが会いに来た理由は・・荒北さんのことが大好きだからですっ。……好き。大好きなんです、本当に…」

待宮に向かって答えたつもりが、最後の方は湧き上がってくる感情に耐え切れず涙と共に囁きにしかならなかったけれど、
背後の荒北だけにはしっかり聴こえていたと思う。

 

「・・・そういうのはちゃんと顔見て言えっつーの………バァカ」

そう耳元で囁かれ、抱き締める力がぎゅっと強まったことでまた一粒ポロリと涙が頬を伝った。

 

 

「アラキター。ベプシ、もう一本追加してもらうけぇのぉ」
「ハッ、しゃーねぇ。・・・サンキューな」
「・・・・?」

二人の会話について行けず首を傾げる坂道に、「イイ勝負してもらった礼じゃ」と待宮が笑った。
荒北も「また勝負してやるヨ。でけぇ借り作っちまったし」なんて返していて、やっぱり訳が分からない。

 

「小野田くんも、アラキタと仲良うせにゃいけんよ」

────あ、れ……?

先程までの刺々しい空気が、待宮の表情からも言葉からも消えてなくなっている。
今 穏やかな眼差しを向けているのが、本来の姿なのかもしれないと坂道は思う。
「酷いことゆーて すまんかったのう」と謝る待宮は、今日会話した中でも一番優しい声をしていた。

 

「はいっ!…あの、…こちらこそ、失礼な事をたくさんしてしまって すみませんでしたっ」
「お互い様じゃ。アラキタんこと飽きたら、ワシんとこ来たらエエ」
「いかせねーよ。つーか、さっさと帰れ」

 

長い両腕で包み込むように坂道を背後から抱き締め、荒北がシッシッと手で追い払う。
荒北さんに飽きるなんてこと、あるわけがないから大丈夫。
それよりも、もっともっと溢れるくらい好きになってしまうだろうから、そっちの方が心配かも。
腕にすりっと頬を寄せれば、抱き締める力が僅かに強まった気がして、坂道の表情がほわぁと甘く蕩けた。

 

「アー・・・・仲良うしとるとこ悪いんじゃが……アンタらそろそろ切り上げたほうがエエ思うけぇのう」

じゃあの、と言うが早いか逃げるようにテントを出て行ってしまった待宮。
急にどうしたんだろうと首を後ろへ向けると、荒北もまたぽかんとした表情を浮かべていた。

けれど、その後間もなくしてギャーギャー騒がしい声と共に雪崩のように乱入してきた人物達によって、その身を持って知ることになるのだった。

 

 

 

「ウ、……ウチの坂道に何してんショ荒北ーー!さっさと離れろっショーーー!!!」
「ま、巻島さん?!?!」
「俺もこれ以上巻ちゃんに嫌われては困るのでな…許せ、荒北、メガネくん」
「東堂テメーッ!こっからがイイとこだっつーのに…!」

 

ぴったりとくっついていた坂道と荒北は、
ロミオとジュリエットよろしく、総北最強の保護者 巻島裕介の手によって引き剥がされるのであった────

 

 

アイツら、ほんまモッとらんのう

 

Fin

 

 

目次へ

タイトルとURLをコピーしました